鳥獣害を資源に変える里山の知恵:捕獲・活用・共生の考え方
里山地域にお住まいの方々や、里山の自然、文化に関心をお持ちの皆様、こんにちは。「資源を活かす知恵袋」編集部です。
里山では古くから、自然の恵みをいただきながら、野生動物との共存を図ってまいりました。しかし近年、一部の地域では特定の鳥獣による農作物被害や生活環境への影響が深刻な課題となっています。これは、森林環境の変化や高齢化による耕作放棄地の増加など、様々な要因が複合的に絡み合って起こっていると考えられています。
鳥獣害を知恵で乗り越える必要性
鳥獣害は、丹精込めた農作物を台無しにするだけでなく、人々の暮らしの安心を脅かす問題です。これに対し、単に動物を排除しようとするだけでなく、里山の長い歴史の中で培われてきた「自然との向き合い方」や、現代の新しい技術、そして「捕獲したものを無駄にしない」という資源活用の視点を取り入れることが重要です。
この記事では、里山に伝わる鳥獣害対策の知恵と、捕獲した鳥獣を資源として活かすための新しい取り組みについてご紹介いたします。
伝統に学ぶ鳥獣害対策の知恵
里山には、古くから地域の人々が動物と向き合う中で生み出してきた様々な知恵があります。
- 音や匂いによる追い払い: 人の声、犬の吠え声、火の音、唐辛子や煙など、動物が嫌がる音や匂いを利用して田畑に近づけないようにする工夫です。
- 物理的な防護: 竹や木材を使った柵、掘り割り、石垣など、古くからある素材を使った物理的な侵入を防ぐ方法です。地域によっては、共同で維持管理する仕組みもありました。
- 生態系への配慮: 闇雲に動物を駆除するのではなく、彼らの生態や行動パターンを理解し、被害が出やすい場所や時期に絞って対策を行うという考え方です。また、緩衝帯となる藪や森を適切に管理することも含まれます。
- 地域の共同作業: 一人ではなく、地域全体で協力して見回りを行ったり、共同で柵を設置・修理したりすることで、対策の効果を高め、負担を分かち合う知恵です。
これらの知恵には、動物を完全に排除するのではなく、適度な距離感を保ちながら共に暮らすという、里山ならではの自然観が反映されています。
現代技術との組み合わせと新しい対策
伝統的な知恵に加え、現代の技術を組み合わせることで、より効果的な対策が可能になっています。
- 電気柵や金網柵: 強固で効果の高い物理的な防護策として普及しています。設置場所や管理方法の工夫が重要です。
- ICTを活用した監視・追い払い: センサーやカメラを設置して動物の接近を検知し、自動で音や光を発して追い払ったり、スマートフォンに通知を送ったりするシステムも開発されています。
- 捕獲技術の進化: より安全で効率的な罠(箱罠、くくり罠など)が開発され、狩猟の担い手育成と合わせて計画的な捕獲が進められています。
これらの新しい技術も、地域の地形や動物の行動に合わせて適切に使いこなすには、里山の自然をよく知る地域の皆さんの経験や知恵が不可欠です。
捕獲鳥獣を「資源」として活かす知恵
鳥獣害対策として捕獲された動物を、単に処分するのではなく、貴重な資源として捉え直す動きが全国の里山地域で広がっています。
- ジビエとしての活用: イノシシやシカなどは、適切に処理することで安全でおいしい食肉「ジビエ」として利用できます。地域の特産品としてレストランや加工品に活用される例が増えています。衛生管理を徹底するための施設整備や、専門的な処理技術の習得が重要です。
- 皮革や角、骨の利用: 捕獲した動物の皮をなめして革製品にしたり、角や骨を工芸品や肥料に加工したりする取り組みもあります。これもまた、地域の資源を無駄なく活かす知恵です。
- 肥料としての活用: 捕獲個体のうち食肉として利用できない部分などを、適切な処理を経て堆肥化し、農地の肥料として活用する試みも行われています。自然の循環の中に位置付ける考え方です。
これらの資源活用は、鳥獣害対策のコストを補うだけでなく、新たな地域産業を生み出し、地域経済を活性化させる可能性を秘めています。
地域ぐるみの取り組みと未来への継承
鳥獣害対策と資源活用は、個人の努力だけでなく、地域全体の連携が成功の鍵を握ります。
- 共同加工施設の設置: 捕獲した鳥獣を衛生的に処理するための施設を地域で共同で整備・運営することで、ジビエ利用の可能性が広がります。
- 狩猟免許取得の支援と担い手育成: 適切な捕獲を行うための人材育成は喫緊の課題です。地域で研修会を開いたり、新規就労者を支援したりする取り組みが必要です。
- 情報共有と獣害マップ: どこでどのような被害が出ているか、どの動物が多く出没するかといった情報を地域で共有し、対策に活かします。
- 消費者への理解促進: ジビエや鳥獣由来の製品に対する理解を深めてもらうためのPR活動も重要です。
これらの取り組みは、里山の知恵を現代に活かし、未来へと継承していくための重要な一歩と言えるでしょう。鳥獣害を単なる「害」として片付けるのではなく、里山の自然と向き合い、そこから生まれる資源を賢く活かすという知恵こそが、持続可能な里山の未来を築く力になるはずです。
まとめ
里山における鳥獣害は深刻な課題ですが、これに対して古くからの知恵と現代の技術を組み合わせ、さらに捕獲した鳥獣を資源として捉え直す新しい視点を持つことが重要です。ジビエ利用をはじめとする資源活用は、被害軽減と地域経済の活性化の両立を目指す取り組みであり、里山の未来を考える上で欠かせない要素となっています。
地域の皆様が持つ自然や動物に関する深い知識や経験は、これらの対策や資源活用を進める上で何よりの宝です。ぜひ、地域で話し合い、様々な知恵を出し合いながら、鳥獣害という課題を乗り越え、里山の豊かな恵みを活かしていく道を共に探っていきましょう。
「資源を活かす知恵袋」では、里山の様々な知恵や取り組みについて、これからもご紹介してまいります。どうぞご期待ください。