里山の獣皮・骨活用知恵:捕獲資源を地域資源に変える工夫
獣害対策から生まれる資源:皮と骨の可能性
里山地域では、近年、シカやイノシシといった野生動物による農作物への被害が増加しており、獣害対策として多くの動物が捕獲されています。捕獲された動物は、ジビエとして食肉利用が進む一方、皮や骨といった部位の多くは、十分に活用されずに廃棄されている現状があります。これは、里山の恵みを余すことなく活かすという伝統的な考え方からすると、大変もったいないことではないでしょうか。
かつての里山では、捕獲された動物の皮や骨も、暮らしの中で様々な形で活用されてきました。これらの「やっかいもの」と見なされがちな部位を、再び地域を豊かにする「資源」として見直す知恵が、今、求められています。
里山に伝わる皮・骨の伝統的な活用知恵
里山の暮らしでは、自然から得られるものは可能な限り活かすという思想が根付いています。捕獲された動物の皮や骨も例外ではありませんでした。
皮の活用:丈夫な素材として
動物の皮は、適切に処理することで非常に丈夫で加工しやすい素材になります。
- なめし技術: 皮を腐敗しないように加工する「なめし」は、地域ごとに独自の技術が伝わっていたことがあります。植物の渋を利用したり、灰を使ったりと、自然素材を組み合わせることで、皮は革へと姿を変えました。
- 生活用品や道具: なめされた革は、袋や小物入れ、足袋などの衣類、さらには太鼓の皮など、様々な生活用品や道具に加工されていました。猟師にとっては、獲物を運ぶための背負い袋や、罠の部品に使われることもあったようです。
- 防具: 丈夫な獣の皮は、山仕事や狩猟の際の防具としても利用されました。
骨の活用:肥料や道具、装飾品に
肉を取り終えた後の骨にも、里山の知恵が活かされていました。
- 肥料: 骨を焼いたり砕いたりしたものは、リン酸などを豊富に含むため、畑の肥料として利用されました。特に痩せた土地を豊かにするために重宝されましたと言われています。
- 道具: 硬い骨は、針や錐、へら、漁具(釣り針など)といった小さな道具を作るのに使われました。角も同様に加工されました。
- 装飾品: 骨や角を加工して、アクセサリーや飾り物を作ることもありました。
これらの伝統的な知恵は、化学製品が少なく、資源を自給自足する必要があった時代の工夫であり、自然の恵みを最大限に活かす思想の現れと言えます。
現代における獣皮・骨の新しい活用
伝統的な皮や骨の活用技術は、工業製品の普及とともに一度は廃れてしまいましたが、近年、資源の有効活用や循環型社会への関心の高まりから、再び注目されています。現代の技術と組み合わせることで、新しい活用方法も生まれています。
皮の新しい活用:ジビエレザーと地域ブランド
- ジビエレザー: 捕獲されたシカやイノシシの皮を専門の施設でなめし、高品質な「ジビエレザー」として活用する取り組みが全国各地で始まっています。この革を使って、財布やバッグ、小物、衣類などが作られています。地域の猟師や工房が連携し、地域資源を活用した新しい産業として期待されています。
- 工芸品・アート: 獣皮を使った伝統的な工芸品が見直されたり、現代アートの素材として使われたりすることもあります。
骨の新しい活用:肥料から建材、燃料まで
- 肥料: 伝統的な骨灰肥料が見直され、有機肥料として活用されています。
- ボーンチャイナ: 高品質な陶磁器であるボーンチャイナの原料の一部として、獣骨灰が利用されることがあります。
- バイオ燃料: 骨や脂肪分をエネルギー源として活用する研究や実証も進められています。
- ペット用品: 煮沸消毒した骨などが、犬のおやつなどペット用品として加工されることもあります。
獣皮・骨活用を進める上での課題と可能性
獣皮や骨を有効活用するためには、いくつかの課題があります。まず、捕獲後いかに速やかに、適切に初期処理(血抜き、冷却など)を行うかが重要です。次に、皮のなめしや骨の加工には専門的な技術や設備が必要となる場合があります。また、これらの加工品を販売するための販路確保や、消費者への理解促進も欠かせません。
しかし、これらの課題を乗り越えることで、獣皮・骨活用は里山地域に新たな恵みをもたらす可能性を秘めています。
- 資源の有効活用と命への感謝: 捕獲された命を無駄なく使い切ることは、自然への敬意と感謝の気持ちを表すことでもあります。
- 地域経済の活性化: 加工や販売の工程で新たな雇用や収入が生まれ、地域経済の活性化につながります。
- 伝統技術の継承と新しい文化の創造: 失われつつある伝統的な加工技術が見直され、現代のニーズに合わせた新しい製品や文化が生まれるきっかけとなります。
- 環境負荷の低減: 廃棄物の量を減らし、持続可能な循環型社会の実現に貢献します。
まとめ
里山における獣皮・骨の活用は、単に廃棄物を減らすだけでなく、捕獲された命への感謝、資源の循環、地域経済の活性化、そして伝統と革新を繋ぐ重要な知恵です。これらの知恵を見直し、現代に活かす取り組みを進めることは、里山地域の持続可能な未来を築くことにつながるのではないでしょうか。地域の中で、獣害対策に関わる方々、加工技術を持つ方々、そしてこれらの製品を使う消費者の方々が連携し、新たな恵みを生み出していくことが期待されています。