里山の種知恵:未来へつなぐ在来種の活かし方
里山の種に宿る豊かな知恵
里山には、長い年月をかけてその土地の気候風土に適応し、育まれてきた多様な作物の「種」があります。これらは「在来種」や「固定種」と呼ばれ、その地域ならではの味わいや特性を持っています。そして、それらの種を守り、次の世代へつないでいくための「知恵」もまた、里山の暮らしと共に受け継がれてきました。
現代では、 F1種(一代交配種)と呼ばれる、毎年種苗店から種を購入する必要がある種が一般的になっています。F1種は収量が多く、病気に強いなどのメリットがありますが、多様性の点では在来種に及びません。里山の先人たちは、自分たちの手で種を取り、それを大切に受け継ぐことで、その土地らしい豊かな食文化と暮らしを守ってきたのです。
この記事では、里山に伝わる種の知恵に焦点を当て、なぜ在来種が大切なのか、そしてその種をどのように採取し、保存し、未来へつないでいくのかについてご紹介します。
なぜ里山で在来種が大切なのか
里山で在来種が大切にされてきたのには、いくつかの理由があります。
まず、多様性を守るという点です。それぞれの在来種は、その地域の土壌や気候、虫や病気に対する耐性など、特有の性質を持っています。多様な種があることで、たとえ特定の病気が流行しても、全ての作物がダメになることを避けられます。これは、予測できない自然の変化に対応するための大切な知恵です。
次に、地域の食文化を守るという点です。在来種はその地域で古くから食べられてきたものです。独特の風味や食感があり、その土地の郷土料理には欠かせない存在です。在来種を守ることは、その地域の味と文化を守ることにつながります。
さらに、持続可能な暮らしという点からも重要です。自分で種を採取できれば、毎年種を購入する費用がかかりません。また、肥料や農薬に頼りすぎない栽培方法と組み合わせることで、自然の循環を大切にした暮らしが可能になります。
里山に伝わる種の採取と保存の知恵
里山の先人たちは、長年の経験から、良い種を取るための方法を知っていました。
1. 良い親株を選ぶ
種を取るための親となる株を選ぶことが最も重要です。病気にかかっていない、よく実った、その作物らしい形や味をしている株を選びます。収穫の際に、最も出来の良いものをいくつか残しておき、そこから種を取るのが基本的な考え方です。
2. 種が熟すまで待つ
野菜や果物によって、種が熟す時期は異なります。食べるための収穫時期よりも、さらに完熟させて種が十分に成長するのを待ちます。例えば、キュウリやナスなどは、黄色く変色して実が固くなるまで置いておきます。
3. 適切な方法で種を取り出す
実から種を取り出す方法も、作物によって様々です。 * トマトやキュウリのようにゼリー状のものに包まれた種は、水で洗ってゼリーを取り除き、きれいにします。 * 豆類は莢(さや)ごと乾燥させてから取り出します。 * 葉物野菜などは、花が咲いて種ができるまで育て、枯れてきたら刈り取って乾燥させ、種を叩き出します。
4. 十分に乾燥させる
種を長期間保存するためには、徹底的に乾燥させることが不可欠です。風通しの良い日陰で新聞紙などの上に広げて干したり、カビが生えないように注意しながら室内で乾燥させたりします。乾燥が不十分だと、カビが生えたり、発芽率が著しく低下したりします。からからになるまでしっかりと乾燥させます。
5. 適切な方法で保存する
乾燥させた種は、湿気や温度の変化が少なく、光が当たらない場所で保存します。伝統的には、紙袋や布袋に入れて吊るしたり、乾燥剤と一緒に瓶に入れたりする方法があります。密閉容器に入れる場合は、中に湿気がこもらないよう、十分に乾燥していることを確認することが大切です。種の種類や量、保存する期間に応じて工夫されてきました。
地域での種の分かち合い
里山の知恵は、個人の中だけでなく、地域全体で共有されてきました。良い種が取れた家がそれを地域で分け合ったり、特定の在来種を守るために皆で協力して育てたりといった営みが行われてきました。これは、種の多様性を地域全体で守り、災害や病気が起こった際にも種が途絶えないようにするための、素晴らしい助け合いの知恵です。現代でも、このような「種子交換会」や「種のバンク」のような活動が行われている地域があります。
未来へつなぐ里山の種の知恵
里山の種の知恵は、単に作物を育てるための技術ではありません。それは、自然の恵みに対する感謝の気持ち、地域で助け合う心、そして次の世代に豊かな環境と文化を残したいという願いが込められた、生きた知恵です。
現代に生きる私たちも、この里山の種の知恵から学ぶべきことは多くあります。小さな畑や庭先で在来種を育ててみること、地域の種子交換会に参加してみること、古老から種の取り方や保存方法を聞いてみることなど、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
里山の多様な種を守り、その知恵を活かすことは、私たち自身の暮らしを豊かにし、未来の世代に大切な財産を残すことにつながるでしょう。